相談事例
CASE
2008.1 山上 の回答
新「会社法」が施行されて1年8ヶ月が経ちました。大企業を基準に構成されていた商法と違い、会社法は中小企業に座標軸を置き、中小企業の実態に合わせた使い勝手のよいものになっています。以前に比べ格段に事業承継のためのツールが増えました。
事業承継では、自社株の分散を防ぎ、後継者に議決権を集中させ、会社の支配権を確固たるものとすることが重要です。そのためには、議決権の3分の2以上を確保する必要があります。それを実現させるための方法を幾つかご紹介します。(ここでは、自由に株の譲渡ができない非公開会社の株式会社に限定して述べます。)
非公開会社はすべての株式に譲渡制限が付されていますから、「譲渡」に関しては会社が事前にストップをかけることが可能です。しかし、株主に「相続・合併等」が生じた場合、株式の分散にストップをかけることができません。そこで、株主に「相続・合併等」が生じたとき、会社に対して株式を売り渡すよう請求することができるとする定款の定めを設けることができるようになりました。
(注)ただし、大株主にとっては、この規定が「両刃の剣」となる危険性もあります。詳しくは「相続人に対する株式売渡請求について教えてください。」の記事をご覧下さい。
① 議決権制限株式の利用
例えば、自社株以外にめぼしい財産のない中小企業の経営者に「後継者の長男」と「会社経営に関心のない二男」がいる場合、全株式を長男に与えれば二男に不満が残り、兄弟に株式を平等に与えれば紛争の火種になりかねません。ここで種類株式を活用し、二男に与える株式を議決権のない「配当優先株式」とすれば、経営と所有の分離ができ、後継者に議決権を集中させることができます。
議決権制限株式とは株主総会での議決権が制限された株式で、制限の内容は全ての事項について議決権を有しないとすることも、特定の事項のみ有しないとすることもできます。配当優先のない議決権制限株式の発行もできます。
② 拒否権付株式の利用
拒否権付株式とは、役員の選解任、増資、合併等重要な事項について、株主総会の決議以外にその種類株式を保有する株主の承認決議が必要となる株式で、「黄金株」ともいわれています。
相続対策で、早めに自社株は後継者に譲り、経営者は拒否権付株式一株を持って経営を続けることもできますし、経営権も譲って後継者の経営に睨みを利かすこともできます。また、後継者に拒否権付株式を相続させ、経営権の安定を図ることもできます。
③ 属人的種類株式の定めを置く
定款に定めることにより株主総会の議決権につき「後継者Aの株式のみ100倍の議決権を有する」とか、「後継者以外の相続人B、Cの株式には議決権がない」と株主ごとに異なる取扱いをすることができます。これにより後継者への議決権の集中が図れます。
上記①②③の種類株式の発行方法(新規発行、株式無償割当、全部取得条項付種類株式の利用等)、後継者への承継方法(生前贈与、死因贈与、遺贈、遺言等)はさまざまなバリエーションがあります。
新株予約権は将来株主となる権利です。後継者に新株予約権を付与することにより自社株を確保しておくことができます。
事業承継は、さまざまな相続対策と組み合わるとより効果的です。株主構成、株価、経営者の推定相続人の構成等貴社の実状に合わせて考える必要があります。ごいっしょに考えてみませんか?