相談事例
CASE
2016.7 担当者 の回答
身近な人がお亡くなりになられた場合、まず思い浮かぶのは預貯金や不動産の相続だと思います。それでは、会社の株式を所有していた場合は、どうなるでしょうか?
株式の相続は、株式に関する権利の包括的な承継です。相続人は当然に被相続人の株式に関する全ての権利義務を承継し、相続人は被相続人の株主たる地位を承継します。(株式の譲渡について、会社の承認を必要とする旨の定めがある会社であっても、相続による名義書換には会社の承諾は不要です。)
注意すべき点は、相続人が複数かつ遺言書がない場合、株式は法定相続分で相続されるのではなく、相続人全員の準共有状態になる、ということです。この場合、相続人間で遺産分割協議が整い、株式を相続する人が決まってからでなければ株主としての権利行使はできません。ただし、遺産分割協議に時間が掛かりそうな場合は、相続株式の持分価格の過半数で「権利行使者」を定め、会社に通知することで、株主権の一部を行使することができます。
会社側も株主に相続が発生した場合には、相続人から提出された戸籍等の相続人を確定する書類や遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書付)等を確認した上で、名義書換手続を行う必要があります。
株主に相続が生じたという事情は会社にはわかりません。そのため、相続人から会社に対し株主名簿の書き換えを請求(又は、前述の権利行使者の通知)しなければなりません。会社の通知や催告が相続人に到達しなければ株主としての権利行使の機会を失うことになりますのでご注意ください。
1)で記載しましたように相続の場合、会社にとって好ましくない方が株式を取得した場合でも、会社は名義書換を拒否できません。そこで、改正会社法では、株式会社は相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対して、「当該株式を当該会社に売り渡すことを請求することができる」旨を定款で定めることにより、相続人から当該株式を取得することが可能となりました(会社法第174条)。
中小企業の社長は、会社の経営と所有の両方をされていることが多く、社長が所有する株式が相続により分散してしまうことで、会社の経営が立ち行かなくなることがあります。
以下のような対策を早めに行うことが肝要です。
① 誰に株式を相続させるか遺言をしておく。
② 無議決権株式等の種類株式を活用する。
③ 信託を利用して、議決権の行使をする人と剰余金の配当を受ける人を別に設定する。
④ 中小企業経営承継円滑化法を利用した事業承継を考える。
⑤ 定款に自己株式取得の際の「売主追加請求権※」排除に関する定めを設け相続人の納税資金を確保する。
⑥ 税制特例の利用を図る。
※売主追加請求権…会社は特定の株主から株式を取得することが可能ですが、当該特定の株主以外の株主が、当該特定の株主に加えて自己をも売主とするよう請求できる権利(会社法第160条3項)。