相談事例
CASE
2016.1 山上 の回答
株式の譲渡制限規定を置いている会社(株式を譲渡するには会社の承認を要する旨の定款の定めがある会社)では、増資(募集株式の発行)をする場合、総数引受契約を利用することがあると思います。総数引受契約とは、株式の引受先が今回会社の発行する株式の全部を引き受ける契約です。
募集株式を発行する場合の基本的な手続きは、①「募集事項の決定」、②「株式の申込み」、③「株式の割当て」、④「出資金の払込み」の順番で進めていきますが、総数引受契約を利用すると②③の手続き(申込み、割当て)が省略できるので、利用されることが少なくありません。
会社法第204条第2項では、募集株式が譲渡制限株式である場合には、上記③株式の割当ての決定は株主総会(取締役会を設置している会社においては取締役会)の決議によらなければならない旨が規定されています。これは、会社にとって好ましくない人が株主になることを防ぐことが目的といわれています。例えば、家族だけで経営している会社(株主や役員が家族のみ)においては、自分たち家族だけで経営することが大切なのであり、出資してくれるとはいえ無関係な第三者が株主になって経営に口を出すことは望んでいない場合がほとんどだと思います。
しかし、総数引受契約を利用する場合、会社法第204条第2項は適用されず上記決議が必要ありませんので、この目的に応えていないのではないかという疑問がありました。
そこで、2015年(平成27年)5月1日より、会社法第205条第2項が新設され、総数引受契約によって募集株式を発行するときでも、譲渡制限株式の場合は株主総会(取締役会を設置している会社においては取締役会)の決議によって契約の承認を受けなければならないようになりました。この改正により、募集事項の決定の決議とともに、総数引受契約の承認決議も必要になりました。取締役会を置いていない会社では、募集事項の決定及び総数引受契約の承認は同じ株主総会で決議することができますが、取締役会を置いている会社では、募集事項の承認は株主総会で決議し、総数引受契約の承認は取締役会で決議することになるため、注意が必要です。
なお、総数引受契約の承認機関について、定款で別段の定めをすることができますので、総数引受契約の承認を取締役会から株主総会に変更することも可能です。その場合は、登記の添付書類として定款も追加で必要ですのでご注意ください。