相談事例
CASE
2023.8 櫻井の回答
非居住外国人や外国会社が日本に会社を設立する際の商業登記に関する障壁は次々に撤廃されており、2015年3月16日付の民商第29号通知で、それまで求められていた「代表取締役のうち最低一人が日本に住所を有している必要があること」という要件が撤廃され、2017年3月17日付の民商第41号通達で、「出資の払い込みをする預金通帳の口座名義人は、発起人及び設立時取締役の全員が日本国内に住所を有していない場合に限り、発起人及び設立時取締役以外の者であってもよい」と要件が緩和されました。これらの取扱いの変更により、代表取締役及び発起人全員が非居住者であって、いずれの者も日本での銀行口座を保有していない場合でも会社を設立できるようになりました。
しかし、前述のような会社が法人の銀行口座を開設しようとすると高いハードルに直面します。会社の口座開設の場合でも、会社そのものに対しての本人確認以外に「代表者や実質的支配者個人への本人確認が求められる」という問題があるからです。個人への本人確認としては、運転免許証や在留カード等の本人確認書類の提示が必要ですが、代表取締役及び発起人全員が非居住者の場合、これらの本人確認書類を用意できないケースが多く、特別な事情がない限り法人口座の開設は難しいのが現状です。
ちなみに非居住者の個人口座開設の場合も同様に困難で、開設できる場合でも非居住者円預金口座以外の口座を開設することはできません。これらは、犯罪収益移転防止法やFATF(金融活動作業部会)等の要請によるもので、近年一段と厳しくなっているように思われます。
銀行口座の開設ができないと事業を運営するのは困難になります。本国との資金の受け渡しができず、日本の取引先との代金の入出金もできません。ネット銀行やゆうちょ銀行など比較的開設しやすい銀行もありますが、日本の取引先企業との円滑な取引には都市銀行や地方銀行の口座が望ましいでしょう。
それではどのようにすればよいのでしょうか?
せっかく、外国人の会社設立が容易になったのですが、従前どおり「代表取締役のうち一人は日本の居住者とし、当初は日本の居住者が株主となり、口座開設ができてから株式の譲渡を行う」という手法を取るのが無難です。
居住者の有無にかかわらず、事前に銀行から会社の事業内容を証明する書面(本店の賃貸借契約書、事業計画書、会社案内、取引先からの請求書等)を求められることが多いため、会社の実体は備えておく必要があります。
ところで、2023年2月7日に金融庁から「外国人起業活動促進事業等を活用する外国人起業家への金融サービス提供について」という文書が出されており、「外国人起業促進実施団体より起業準備活動計画確認証明書の交付を受け、在留資格(特定活動)を付与された者から、入国後6月経過以前に口座開設の取引の申し出があった場合等に、居住者口座又は居住者と同等の口座を提供すること」を銀行協会に対して要請しています。今後の動向を注視したいと思います。