相談事例
CASE
2023.8 櫻井の回答
外国人が日本に来て起業する場合、就労制限のない在留資格(永住者・定住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等)を取得できるケースを除いて「経営・管理」の在留資格が必要となります。今回は就労制限のない在留資格の該当ケースではない前提でご説明します。
外国人が経営をする目的で「経営・管理」の在留資格を取得するためには、通常は、「申請時点で日本での事業を開始していること」と「その事業が適正性・安定性・継続性を有すること」を証明しなければなりません。それらを証明するための重要な資料の一つとして、会社の定款や会社の登記事項証明書※等、ケースバイケースで事業計画書・事務所の賃貸借契約書・役員報酬を決議した議事録・従業員の雇用契約書・住民票等を出入国在留管理庁に提出します。会社を設立し、その会社を事業所として申請すると、「その会社が見せかけのものではないこと」と「在留資格の取得を希望する申請者が名ばかりの経営者ではないこと」を会社の登記事項やその裏付け資料等から審査され、在留資格を許可するかどうかが決定されます。設立登記はできたものの経営者本人の在留資格が取得できず、日本に在留することができなければ、設立した会社は意味のないものになってしまいます。そのような事態を避けるため、次の事例の内容で会社を設立し、在留資格の申請手続きを行う場合に注意すべき事項をご説明します。
※2015年4月、「経営・管理」に4カ月の設立準備のための在留期間が新設されたため、必ずしも設立した会社の登記事項証明書を添付することが必要なわけではありません。
外国人が発起人となり、資本金の半分超を出資する実質的支配者として会社を設立し、事業の実質的経営を担う
事業の経営に実質的に従事しなければならないため、取締役ではなく代表取締役への就任を推奨します(代表取締役であれば事業の運営に関する重要事項の決定や業務の執行を行うものとして出入国在留管理庁に判断されやすいため)。
申請に係る事業を営むための事業所が日本にあること、つまり、経営実態があることを証明するために事務所の確保が要件となっており、原則的には会社の本店所在地と当該外国人の自宅は別の場所とする必要があります。
賃借人は会社名義とし、使用目的は事務所・店舗等会社の事業目的に沿うものにする。
会社が事業を行う設備を備えた事業目的専用の部屋を設け、会社が負担する賃料や光熱費等を住居部分に係るものと明確に区分し、玄関に看板を掲げる。尚、入口から事務所まで居宅部分を通ってはいけないという出入国在留管理庁もあるようです。
貸主から物件の一部を会社へ転貸借すること及びその部分の使用目的を事務所等に変更することの同意書をもらう。
「事業の規模」の要件として、次のいずれかに該当する必要があります。
① 本邦に居住する二人以上の常勤の職員が従事して営まれること
② 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること
③ ①又は②に準ずる規模であると認められること
会社のスタート時点で①の要件を充たすことは難しいことが多く、また、事業を実質的に営むにはそれなりの資本投下は必要であることから、③を選択するケースが多いです。
「経営・管理」の在留資格認定証明書交付申請時には出入国在留管理庁から当該外国人がどのように資本金を調達したかについて説明を求められるため、資金の出所を明確に説明できるようにする必要があります。登記申請では資本金の入金の経緯を明らかにすることは要求されていないことから、入国時に税関で申告せず持ち込んだ現金を資本金として発起人等の口座に入金していることがよくあります。しかし、出入国在留管理庁に対しては、出資金を海外から送金したという事実を証明できる資料を提出しなければなりません。また、その送金が当該外国人以外の第三者からのものである場合、当該外国人の出資ではないとみられます。当該外国人が送金者から贈与を受けたのであれば贈与契約書、借りたのであれば金銭消費貸借契約書の提出が必要です。たとえ当該外国人本人からの振り込みであっても、学校を卒業して間もないなど就労経験がなければ、何故その資金を所持しているのかを説明する必要があります。説明が難しいような形で資金を移動させてしまった後に修正することは難しいため、注意が必要です。
また、この出資は、外国為替及び外国貿易法上の「対内直接投資」に該当するため、日本銀行経由で財務大臣及び事業所管大臣に事前届又は事後報告をする必要があります。
当該外国人は日本で許可された在留資格に見合う活動をしなければならないため、規模の小さい会社で複数の外国人が「経営・管理」の在留資格を取得することは難しいです。たとえ各々500万円を出資して外国人が二人とも日本法人の代表取締役に就任していても、「会社の規模から考えて、その会社に二人分の代表取締役としての活動(業務量)があるとは考えられない」と出入国在留管理庁が判断した場合、どちらか一人しか「経営・管理」の在留資格を取得できません。ならば計画を変更して一方は経営者ではなく従業員として「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得しようと考えても、従事しようとする業務に関連する学歴又は実務経験がない場合、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の要件を充たすことができません。500万円ずつ出資したのに一方は日本に在留できないという事態にならないために、二人が共同出資をして1つの会社を設立するのではなく、各々が会社を設立する等、最初の段階でスキームをしっかり検討しておく必要があります。
以上のように、外国人による日本での会社の設立登記と「経営・管理」の在留資格取得との間には密接な関係があるため、両者の関連を考えつつ慎重に手続きを進めていく必要があります。