相談事例

CASE

デジタル遺産の相続対策を教えてください。

2023.7   松尾の回答

これまで遺産と言えば、土地や建物などの不動産、預貯金、車や貴金属などの動産が中心でしたが、多くの人がインターネットやデジタル機器を利用する昨今では、パソコンやスマホ内にも重要な情報がデジタルで保管されています。デジタルの遺産は今後ますます増加することが見込まれ、生前にデジタルデータについても相続対策をしておく必要があります。

 

デジタル遺産とは

明確な定義はなく、端的に言えば「持ち主が亡くなり、遺産となったパソコンやスマホを介する全てのもの」を指します。

《具体例》

オフラインのデジタル遺産…

遺品であるデジタル機器(パソコンやUSB等)自体の中に保存されたデジタルデータ(写真データ、文書ファイル、閲覧履歴等)

オンラインのデジタル遺産…

故人のオンラインのデジタルデータ(ネット銀行口座、SNSアカウント、暗号資産、電子マネー、クラウド上に保存されたデータ等)

 

デジタル遺産の問題点

通帳や紙の報告書など目に見える形で存在する遺産と違って、デジタル遺産は遺族が容易に見つけられるものではありません。そのため、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。

  • 相続手続き完了後にネット銀行口座や仮想通貨等を発見した場合、相続税の修正申告が必要となり、追徴課税を受ける恐れがある。また、新たに発見された遺産について改めて遺産分割協議が必要となる。
  • 定額課金サービスが解約されず、亡くなった後も課金が継続される。
  • FXのネット取引口座に気づかないうちに損失が発生し、追加証拠金を請求される。

たとえデジタル遺産の存在が分かっていてもパスワード等がわからない場合、パソコンやスマホ内にあるデータを確認するのは容易ではないでしょう。また、デジタル遺産はプライバシーにあたる部分であり、故人が亡くなった後も人に知られたくないと思うものも多いのではないでしょうか。
娘が急死されたという方から頂いたご相談によると、娘が暗号資産を持っていることは聞いていたので遺産を調査しようとしたものの、スマホもパソコンもロックがかかっており、そうこうするうちに支払の督促メールがスマホの画面上に表示され心配になり、専門の業者にロックの解除を依頼しようとしたそうです。しかし、業者の回答は数十万から数百万円費用が掛かり、解除できなくてもデータが破壊されても責任はとれない、というものでした。スマホのロックを解除することは原則的には本人以外はできないようです。
遺族への負担をできる限り少なくするには生前に適切な対策をしておくことが大切です。

 

エンディングノートや財産目録を作成しておき、相続人と共有しておく

相続人間で争いが起こる可能性がない場合には、これだけで十分だと思います。
但し、デジタル遺産を相続させようと思う場合は、デジタル遺産の種類だけでなく、口座情報やパスワード、デジタル遺産にアクセスするため必要となる情報を全て共有しておくべきでしょう。

 

遺言書を作成しておく

遺言に記載することで法的に効力がある事項は法定されており(法定遺言事項)、それ以外のことを記載しても法的効力はありません(付言事項)。どの財産を誰に相続させるか(遺産分割方法の指定)は法定遺言事項ですので、デジタル遺産についてもデジタルデータが保存されているデジタル機器とデジタルデータの双方について誰に相続させるかを遺言書に記載します。但し、アカウントなど相続できないものもありますので、サービス運営会社の規約等を確認する必要があります。
デジタル遺産の処分を希望する場合、付言事項として遺言書にその旨を記載します。付言事項に法的効束力はないため本人の意思を確実に実現させるものではありませんが、本人の意思を伝えることで相続人が処分してくれる可能性はあります。

 

死後事務委任契約を締結しておく

死後事務委任契約とは、亡くなった後の事務手続きを第三者に委任する契約で、デジタル遺産の取扱い等を委任することも可能です。
死後事務委任契約では受任者や委任者の地位を承継した相続人が委任者の死亡後に契約を解除することは特段の事情が無い限り認められず、契約上の義務であることから、本人の意思が実現される可能性が高い方法といえます。弊法人でも十数人と死後事務委任契約を締結しておりますが、多くは遺言執行と併せて受託しているため、委任者の意思が確実に実現できます。高齢者からの委任が多く、現時点ではデジタル遺産の処理についての委任は1件だけです。今後増加が見込まれますので、弊法人もデジタルの世界の知識が不可欠だと考えております。
死後事務委任契約について、詳しくは相談事例をご覧ください。

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