相談事例
CASE
2020.3.23 山上 の回答
書面決議は実際に一堂に会することなく行う決議です。
今般の新型コロナウイルス感染症に伴う特殊な状況においては、予定した時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合として「株主総会の開催時期を延期する」取り扱いが認められております(詳細は「新型コロナウイルス感染症に伴う定時株主総会の開催についての取扱いのお知らせ(法務省)」をご参照ください。)が、書面決議という方法もあります。書面決議は会社法で定められた方式ですので、このような特殊な状況だけでなく、平時においても活用できます。
書面決議による株主総会とは、単に書面により議決権を行使するという意味ではなく、株主総会の開催自体を省略して書面やメールで株主総会決議事項について株主の賛否を問い、同意を貰うことで、株主総会の決議があったものとみなすものです。つまり、会社の会議室やホールなどを借りて開催される株主総会と効力は同じで、決議できる内容や範囲にも制限はなく、全ての決議(普通決議、特別決議、特殊決議)が可能です。
招集手続きや会場の準備等が不要になりますので、手間を省くことができますし、株主の中に外国人や外国法人が含まれる場合や、日本人でも海外など遠隔地に居住している場合など、実際に集まることが難しい様々な状況において活用できます。
株主総会の書面決議の要件は以下のとおりです。(会社法319条1項)
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
つまり、「取締役又は株主が提案した内容について株主全員(但し、議決権を行使できない者は含まない)が同意すること」が要件です。
但し、取締役が提案するには、提案する内容及び書面決議を行うことについて取締役会の決議(取締役会を設置していない会社の場合には、取締役の決定)が必要です。
書面決議を行った場合も株主総会議事録は作成する必要があります。
また「株主総会議事録」と「株主の同意書」は、決議があったとみなされた日から10年間本店に備え置く必要があります。(cf. 実際に株主総会を開催した場合には、支店にも写しを5年間備え置く必要があります。)
書面決議による場合の株主総会議事録に記載すべき事項は以下のとおりです。(会社法施行規則72条4項)
イ 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした者の氏名又は名称
ハ 株主総会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
記載例
尚、株主総会では、議決権の代理行使(代理人が出席させ、議決権を代理行使させる)、書面等による議決権の行使(実際に開催される株主総会に出席しない株主が書面等で議決権を行使する)も認められます。
株主総会と同様に取締役会でも定款に定めがあれば書面決議を行うことができます。
取締役会の書面決議の要件は以下のとおりです。(会社法第370条)
取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
また、代表取締役と業務執行取締役は、3か月に1回以上は実際に開催される取締役会で職務の執行状況を報告する必要があるため、全ての取締役会を書面決議で行うことはできません(会社法372条2項、363条2項)。尚、Webやテレビを利用した会議(一堂に会する場合と同等に発言が即時に他の全ての取締役に伝わり、自由に協議・意見交換できる双方向性が確保されたもの)は書面決議ではなく、実際に開催された取締役会の決議として取り扱われます。対象となる会議(取締役会)で議決に加わることができる者(取締役)全員(但し、議決権を行使できない者は含まない)の同意が必要である点は「1. 株主総会の書面決議」と同様の考え方ですが、異なる点は、定款に「書面決議についての定め」が必要であること、監査役が当該提案について異議を述べたときには書面決議は認められないことです。
書面決議を行った場合も取締役会議事録は作成する必要があります。
また「取締役会議事録」は、決議があったとみなされた日から10年間本店に備え置く必要があります。
書面決議による場合の取締役会議事録に記載すべき事項は以下のとおりです。(会社法施行規則101条4項)
イ 取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした取締役の氏名
ハ 取締役会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
記載例
尚、取締役会では、議決権の代理行使(代理人が出席させ、議決権を代理行使させる)、書面等による議決権の行使(実際に開催される取締役会に出席しない取締役が書面等で議決権を行使する)は認められません。そのため、前述の書面決議(決議の省略)を行う場合を除き、議決権の行使には本人の出席が必要です。
株式会社だけでなく、一般社団法人・一般財団法人にも同様の規定があります。
一般社団法人における社員総会の書面決議の要件は以下のとおりです。(一般法人法第58条1項)
理事又は社員が社員総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき社員の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の社員総会の決議があったものとみなす。
上記のとおり社員総会の書面決議については「1. 株主総会の書面決議」と同様の考え方ですが、社員の全員には利害関係がある社員も含まれます。
つまり、「理事又は社員が提案した内容について議決権を行使できない者を含む社員全員が同意すること」が要件です。
但し、理事が提案するには、提案する内容及び書面決議を行うことについて理事会の決議(理事会を設置していない法人の場合には、理事の決定)が必要です。
書面決議を行った場合も社員総会議事録は作成する必要があります。
また「社員総会議事録」と「社員の同意書」は、決議があったとみなされた日から10年間主たる事務所に備え置く必要があります。(cf. 実際に社員総会を開催した場合には、写しを従たる事務所にも5年間備え置く必要があります。)
書面決議による場合の社員総会議事録に記載すべき事項は以下のとおりです。(一般法人法施行規則11条4項)
イ 社員総会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした者の氏名又は名称
ハ 社員総会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った者の氏名
記載例
尚、社員総会では、議決権の代理行使(代理人が出席させ、議決権を代理行使させる)、書面等による議決権の行使(実際に開催される社員総会に出席しない社員が書面等で議決権を行使する)は認められます。
一般財団法人における評議員会の書面決議の要件は以下のとおりです。(一般法人法第194条1項)
理事が評議員会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき評議員(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の評議員会の決議があったものとみなす。
上記のとおり評議員会の書面決議については「1. 株主総会の書面決議」と同様の考え方です。
つまり、「理事が提案した内容について評議員全員(但し、議決に加わることができない者は含まない)が同意すること」が要件です。
但し、理事が提案するには、提案する内容及び書面決議を行うことについて理事会の決議(理事会を設置していない法人の場合には、理事の決定)が必要です。
書面決議を行った場合も評議員会議事録は作成する必要があります。
また「評議員会議事録」と「評議員の同意書」は、決議があったとみなされた日から10年間主たる事務所に備え置く必要があります。(cf. 実際に評議員会を開催した場合には、写しを従たる事務所にも5年間備え置く必要があります。)
書面決議による場合の評議員会議事録に記載すべき事項は以下のとおりです。(一般法人法施行規則60条4項)
イ 評議員会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした者の氏名
ハ 評議員会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った者の氏名
記載例
尚、評議員会では、議決権の代理行使(代理人が出席させ、議決権を代理行使させる)、書面等による議決権の行使(実際に開催される評議員会に出席しない評議員が書面等で議決権を行使する)は認められません。そのため、前述の書面決議(決議の省略)を行う場合を除き、議決権の行使には本人の出席が必要です。
一般社団法人・一般財団法人における理事会の書面決議の要件は以下のとおりです。(一般法人法第96条、第197条)
理事会設置一般社団法人(理事会設置一般財団法人)は、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監事が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
上記のとおり理事会の書面決議については「2. 取締役会の書面決議」と同様の考え方です。
つまり、理事が提案した内容について理事全員(但し、議決に加わることができない者は含まない)が同意すること、定款に「書面決議についての定め」があること、監事が当該提案について異議を述べないこと、が要件です。
また、代表理事と業務執行理事は、3か月に1回以上(定款の定めにより、毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上とすることも可能)は実際に開催される理事会で職務の執行状況を報告する必要があるため、全ての理事会を書面決議で行うことはできません(一般法人法98条2項、91条2項)。
書面決議を行った場合も理事会議事録は作成する必要があります。
また「理事会議事録」と「理事の同意書」は、決議があったとみなされた日から10年間主たる事務所に備え置く必要があります。
書面決議による場合の理事会議事録に記載すべき事項は以下のとおりです。(一般法人法施行規則15条4項・62条)
イ 理事会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした理事の氏名
ハ 理事会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った理事の氏名
記載例
尚、理事会では、議決権の代理行使(代理人が出席させ、議決権を代理行使させる)、書面等による議決権の行使(実際に開催される理事会に出席しない理事が書面等で議決権を行使する)は認められません。そのため、前述の書面決議(決議の省略)を行う場合を除き、議決権の行使には本人の出席が必要です。