相談事例
CASE
2013.1 櫻井 の回答
先日、とよなか国際交流協会で外国人の妻のための相続セミナーをさせていただきました。とよなか国際交流協会では「外国人が安心して集える居場所づくり&エンパワーメントをすすめる事業」や「多文化共生社会を推進するひとづくり」を中心に、さまざまな活動を地域や学校と連携しながら日常的に展開しています。子育て、教育、就労、結婚、離婚、DV、在留資格等々外国人が日本で生活していく上で直面するあらゆる分野の相談、支援に応じ、外国人にとってはとても心強い相談窓口となっています。施設全体が温かい雰囲気で、託児サービスもあり、子育て中の若いお母さんも安心して参加できます。
当日の参加者の国籍は、タイ、フィリピン、インドネシア、中国、台湾、韓国、ブラジル、ペルー、アメリカ、ロシアと様々で、言語ごとに各テーブルに分かれ、ボランティアの通訳の方がつきました。配偶者の方にもしものことがあったときの手続きについて、私どもが思いもよらないような不安(誤解があるものも含め)や悩みをお持ちでした。日本人の方を対象としたセミナーと違い、2時間のセミナーの半分以上が質問攻めでした。
そこで、そのような不安やお悩みを少しでも解消できればと思い、ポイントをまとめてみました。これは外国人の妻に特有のことではなく、日本人の妻にも共通するポイントですので(妻を夫に読み替えて頂ければ男性にも役立ちます)、皆さまに読んで頂けましたら幸いです。
日本人だけの相続でも「相続人が誰か」「相続財産はどれだけあるのか」の特定には時間がかかるものです。特定できた後も、相続財産をめぐり相続人間で何年も不毛な争いが続くことがあります。
相続で大切なポイントは次の3点です。
調べてみると、依頼者の知らない相続人の存在が明らかになることが年に2、3件あります。外国人の場合、婚姻、出生、認知、連れ子の養子縁組等の法的手続きが不備なくなされており、そのことが書類できちんと証明できることを予め確認しておくことが大切です。外国人には戸籍がありませんから、親族関係の証明が困難なことがあります。夫の婚姻前の経歴、「先妻との間に子供があったのか」「認知している子供はいないのか」等は夫婦関係の円満なうちに確認しておきましょう。
夫が健在なうちに資産・負債の詳細、保管場所を聞いておくべきです。外国人の場合、夫との年齢差があり、夫が財産管理している場合が多いので、夫亡きあと、手探り状態で相続財産を明らかにしていくことは言葉の壁もあり至難の業です。
相続財産はプラスの資産ばかりでなく、マイナスの負債も含まれます。借金ばかりであればぐずぐずしていられません。相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。また、夫が会社の経営者で、会社の借金の連帯保証人となっている場合、相続人は連帯保証人の地位を相続しますから、同様に3ヶ月以内に熟慮期間の伸長の申立をしなければならない場合があります。
この手続きは外国人であっても、日本の家庭裁判所でできます。
相続財産の分け方は
① 遺言があれば遺言書に書かれた内容が最優先
↓ 遺言がなければ
② 相続人全員で遺産分割協議
↓ 協議が整わなければ
③ 法定相続分による(遺産分割調停など)
①②の場合でも債務(負債)については、債権者(ex.貸付人)の承諾を得ない限り債権者に対して、①②の内容を主張できず、法定相続分通りに各相続人が負担することになります。
遺言書は決して万能でありませんが、遺言があればその内容が最優先されますので、相続争いを回避する最善の方法といえます。遺言内容は法定相続分と関係なく決めることができますが、遺留分などの考慮はしておきましょう。子供のいない外国人の妻は、遺産分割について、夫の親族(両親、兄弟姉妹)と交渉しなければなりませんが、それは日本人以上に大変なことだと思います。
相続では被相続人が亡くなられた後からの修正は効きませんから、前提を間違うと元も子もありません。相続人が他にいたり、相続財産に含まれないものがあったり、遺言が法律に則った書き方になっておらず無効になったりしますと、せっかくの準備も、水の泡となってしまいます。
費用は掛かっても、夫が元気で夫婦仲が良好なうちに、専門家にご相談されることをお勧めします。
相続には日本の法律(民法)が適用されます。相続人の国籍は関係ありません。つまり、外国人妻も日本人妻と全く同様に相続できます。日本人でないと相続できないといわれ、「帰化(日本国籍となること)」された方があったそうですが、その必要はありません。
妻の国に夫が不動産や預金を持っていることがよくあります。遺言があれば遺言通りの相続ができる場合がありますが、なければ不動産や預金のある国の相続法によらなければならないことがあります。現地の裁判所や弁護士の費用が高額で、遺産が少額な場合、費用倒れになることがあります。海外の預金には、相続手続きを回避できるjoint account(共同生存者口座)、payable on death account(死亡時支払口座)等があります。国により様々な口座、手続きがありますから、予めよく調べておかれるとよいでしょう。
相続には原則として、夫の国の法律が適用されます。ただし、その国の法律によっては、日本法が適用されることもあります(これを「反致」といいます)。また、遺言で準拠法を選択でき、日本法を選択することができる国もあります。ところが、外国の国際私法や相続法を調べることは容易ではありません。国によって対処法が異なりますので、自国に帰られた時、予め自分の国の国際私法と相続法を調べて、最善の方法を考えておくべきです。
とはいえ、それは法律の専門家でない者にとって簡単なことではありません。そこで、私のお勧めナンバーワンの手法は、生前に公正証書により死因贈与の契約書を作成しておくことです。夫の死亡を条件として、夫と妻の間で贈与の効力が発生するという契約を締結しておくのです。その中で日本法を準拠法とすることを定めておけば、本人の本国法に関係なく、死後、日本法に則り手続きをすることができます。その際忘れてはならないことは、必ず執行者(妻が執行者となることもできます)を決めておくことです。そうすれば、夫が亡くなった時、妻と執行者だけで不動産登記等の手続きをすることができます。
妻にとって、死因贈与の契約のよいところは、契約ですから、契約に定めれば妻の同意がないと夫の一存では変更できないことと、予め不動産であれば仮登記をして、順位を確保できることです。遺言であれば、夫はいつでも書き換えることができます。また、夫が亡くなった時にはすでにその不動産は第三者のものになっているかもしれません。その意味でも安心ですね。
相続は先手必勝です、作戦を一緒に立ててみませんか?