相談事例
CASE
2021.7 山上
「所有者不明土地」という言葉をお聞きになったことはありますでしょうか?
国土交通省によると、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」、とされています。
通常、土地や建物の所有者を確認しようとした場合、不動産登記の登記事項証明書を取得して所有者を確認しますが、これが長年の間、相続登記や住所・氏名変更登記がされておらず、現在の所有者が判らない、所有者の氏名が判っても住所が判明しないといったケースが増えてきています。
所有者不明土地問題研究会によると、2016年時点でこういった「所有者不明土地」が全国で約410万ヘクタール存在するとされており、この面積は九州の土地面積(368万ヘクタール)を上回るものです。
では、この「所有者不明土地」、あると何が困るのでしょうか?
簡単です。所有者が判らない・所有者と連絡がつかないのですから、その土地を売ったり、利活用したりすることができません。
例えば、一部でもそういった「所有者不明土地」が存在すると、公共事業(道路の新設・拡張、河川の拡張、急傾斜地崩壊対策、公園整備等)ができません。
また、相続登記を数代にわたって放っておくと自分の持分が正確には把握できず、遺言の一部が無効になってしまったりするケースもあります。
そこで、以前から相続登記の義務化が議論・検討されていましたが、民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正法が2021年4月21日に成立し、同28日に公布されました。改正法は公布後2年内に施行される予定です(但し、相続登記義務化関係の改正は公布後3年内、氏名・住所変更登記義務化関係の改正は公布5年内に施行される予定。)。
改正法の内容を一部ご紹介します。
⇒相続により所有権を取得した者(相続させる遺言による受遺者相続人を含む)は、相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権取得を知った日から3年以内に相続による所有権移転登記を申請しなければならない。正当な理由なく当該申請を怠った場合は、10万円以下の過料の対象となる。
⇒上記①の相続登記申請義務者は、法務省令で定めるところにより、所有権登記名義人に相続が開始した旨及び自身がその相続人である旨を申し出ることができる。上記①の期間内に当該申出をした者は、上記①の義務を履行したものとみなされる。登記官は、当該申出があったときは、職権で、その旨及び当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。当該申出をした者は、その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、当該遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければならない。
⇒遺贈(相続人に対する遺贈に限る)による所有権移転登記は、登記権利者が単独で申請できる。(改正前は他の相続人との共同申請)
⇒法定相続分での相続登記がされている場合において、次に掲げる登記をするときは、更正登記によるものとした上で、登記権利者が単独で申請できる。(改正前は他の相続人との共同申請)
⇒所有者の氏名、住所等に変更があった場合は、その変更があった日から2年以内にその氏名、住所等の変更登記を申請しなければならない。正当な理由なく当該申請を怠った場合は、5万円以下の過料の対象となる。
⇒不動産の所有権を取得する個人は、所有権取得に関する登記申請時に生年月日等の情報の提供が義務付けされる(法務局内での検索用データとして保管される)。
⇒不動産の所有権を取得する会社等の法人は、商業・法人登記簿上の会社法人等番号が登記される。
⇒不動産の所有権を取得する者が国内に住所を有しない場合は、国内における連絡先が登記事項となる。
⇒所有権の登記名義人として記録されている不動産に関する一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を、本人又は相続人は、交付請求できる。但し、所有者の氏名及び住所は請求者が特定し、その特定された氏名及び住所に基づいてシステム検索した結果が証明されるものとなる。