相談事例
CASE
2020.8 松尾 の回答
亡母(A)の預金が900万円しかないことを疑問に思ったAの次女(C)より相談を受けました。Aの相続人は長女B、C、長男Dの三人です。遺産は預金だけです。CにAが取引をしていた甲銀行の取引履歴を入手してもらいました。そうすると、Aが入院してから亡くなった5日後まで、毎日のように50万円ずつ計24回、合計1200万円の出金がありました。出金したATMは長女Bの自宅のすぐ近くにあることが分かりました。
相続人が複数いる場合、亡くなった人の遺産は相続人全員の共有状態となります。この共有状態を解消し、各々の相続人が遺産を取得するためには、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。ただ、この遺産分割をする前に、その共有持分を処分することは禁じられていないため、相続人の一人が遺産を処分してしまうことがあります。改正前の民法では遺産分割において遺産の範囲をどうすべきか明文の規定がなく、実務上、処分した部分を除いた財産を基準として遺産分割がなされていました。
相談事例の場合、結局BはATMで1200万円出金したことを認めました。しかし、改正前の民法では、Aの遺産分割の対象は残っている900万円となり、たとえ、Ⅽ、Dが各々450万円ずつ取得したとしても、処分したBが一番得をすることになります。そうすると、相続人の一人による勝手な行動により他の相続人は遺産の取得額が小さくなり、不公平が生じます。
そこで新設された民法第906条の2で、共同相続人全員の同意があれば遺産分割前に処分された財産についても、遺産分割の対象財産とすることができる仕組みが明記されました。さらに、処分した人が相続人である場合は、処分をした相続人を除く他の共同相続人全員の同意でよく、共同相続人の相続人間の不公平の解消が図られています。
相談事例では、Bを除くC及びDの同意があれば遺産分割は2100万円を対象とすることができます。
それでは、処分したのが第三者の場合はどうでしょうか?条文上は相続人か、第三者かを区別していないことから、適用があるとされています。相談事例でも、最初はBの娘婿が事業資金に使ったと言っていました。その場合でも、適用があります。
ところで、遺産を全部処分された場合はどうでしょうか?同条は遺産分割が前提ですので、全部を処分された場合には遺産がなく、遺産分割自体ができないから適用がないと考えられています。
相談事例の場合、C及びDは別途訴訟を提起するなどして、損害の回復を求めることになるでしょう。