相談事例
CASE
2020.7 山上 の回答
新型コロナウイルス感染症対策が要請される中、今年の定時株主総会の開催について頭を悩まされている経営者の方も多いことと思います。開催自体を中止することは会社法の規定に反するため認められません。経済産業省は現下の状況においては3密を避けるため、会場に入場できる株主の人数制限や、その結果として株主が出席していない状態での株主総会の開催も認めており、来場せずに議決権を行使できる書面投票制度や電子投票制度の積極的な利用と定時株主総会への来場自粛の呼びかけを要請しています。書面投票制度や電子投票制度を既に採用している会社は同制度の利用を株主へ推奨すると思われますが、同制度を採用していない会社であれば委任状を活用する方法もあります。また会場にいない取締役等の役員または株主がテレビ会議システム等によって出席するハイブリット型バーチャル株主総会によることも可能です(出席したと認められるには、会場とテレビ会議システム等による出席者との間で円滑に意思疎通が図れる必要があります。)。
株主総会の開催時期についても柔軟な検討を要請しており、延期開催や2段階に分けての開催(継続会の利用)も可能ですが、株主が少数である場合には、書面決議の採用を検討しては如何でしょうか。
株主総会への出席に代えてインターネットを利用又は書面の郵送により議決権を行使します。
株主本人が議決権を行使し、決議に一票を投じるものです。この制度を採用するためには、株主総会の招集決定において本制度を採用する旨を定め、株主総会の2週間前までに招集通知、株主総会参考書類及び議決権行使書面を株主に送付する必要があります。
株主は議決権の行使を代理人に一任します(株主が各議案の賛否を表示し、その指示に従った議決権の行使を委任することも可能です。)。(1)の制度を採用していない非公開会社であれば、原則として株主総会の1週間前までに招集通知と委任状を株主に送付します。
日付 | 定款規定 | 2.延期開催 | 3.継続会の利用 |
3/31 | 事業年度末日 (議決権行使の基準日) |
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5/15 | 議決権行使基準日の変更に関する公告 | ||
5/31 | 変更後の基準日 | ||
6/26 | ①定時株主総会 開催 役員の任期満了(2) 役員の辞任 |
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6/30 | 定時株主総会開催期間の最終日 (事業年度の終了後3か月以内) |
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7/28 | 定時株主総会 開催 役員の任期満了 |
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8/31 | 定時株主総会開催期間の最終日 (変更後の基準日から3か月以内) |
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9/25 | ②継続会 開催 役員の任期満了(1) |
*定款に「役員(取締役、会計参与及び監査役)及び会計監査人の任期は定時株主総会の終結の時まで」との定めがあるものとします。
法務省は、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものとしています。この場合、改選期にある役員(任期の末日が定時株主総会の終結の時までとされている取締役、会計参与及び監査役)及び会計監査人(以下、「役員等」といいます。)の任期については、定時株主総会を開催することができない状況が解消された後合理的な期間内に開催された定時株主総会の終結の時までとなるものと考えられます。
なお、定款で定められた定時株主総会の議決権行使の基準日から3ヶ月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、新たに議決権行使の基準日を定めることも可能です。そのためには、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項)。新たな基準日を定めない場合には、原則に戻り、権利行使時点である定時株主総会開催時点の株主が議決権を行使することになります。
当初の予定通りに定時株主総会①を開催し役員選任等の決議をし、新型コロナウイルス感染症の影響で準備が間に合わなかった計算書類の報告等については後日に開催する継続会②で行うものです。この場合、①の定時株主総会で続行の決議(会社法第317条)を得る必要があります。
平時であれば株主総会から継続会までの期間は長くとも2週間程度と考えられますが、より期間を伸長(金融庁・法務省・経済産業省によれば3か月を超えないことが目安)することが認められています。
当初の定時株主総会と継続会とは同一の株主総会であると認められますので、役員等の任期については、継続会の終結時までと考えられます。
しかし、同様の事例でも計算書類の報告等を目的とせずに定款所定の定時株主総会の開催時期に定時株主総会を開催し役員改選の決議をした場合には、役員等の任期は定款所定の開催時期に開催された定時株主総会の終結時までと考えられます。
● 任期満了を原因とする場合
当初の定時株主総会における決議(会社法第329条第1項)により、当初の定時株主総会の時点において改選期にある役員等の任期が満了するものとして、その後任を選任する方法によることも可能です。
この場合、定時株主総会の議事録に「役員等の任期が当初の株主総会の時点で満了する旨」及び「その後任を選任した旨」が記載されている必要があります。また当該役員等に係る変更登記は、当初の定時株主総会の日から2週間以内に行う必要があります(会社法第915条第1項)。そのため、継続会の開催前であっても、当初の定時株主総会の議事録を添付した上で,当該変更登記を申請します。
● 辞任を原因とする場合
当初の定時株主総会の時点において改選期にある役員等が辞任した上で、その後任を選任する方法によることも可能です。
この場合、定時株主総会の議事録に、「新任の役員が当初の株主総会の日をもって辞任した役員の後任として選任された旨」が記載されている必要があります。また当該役員等に係る変更登記は、当初の定時株主総会の日から2週間以内に行う必要があります(会社法第915条第1項)。そのため、継続会の開催前であっても、当初の定時株主総会の議事録及び辞任した役員等に係る辞任届(当該議事録に改選期にある役員等が辞任する旨の意思表示をした旨が記載されている場合、辞任届は不要です。) を添付した上で、当該変更登記を申請します。
書面決議による株主総会とは、単に書面により議決権を行使するという意味ではなく、株主総会の開催自体を省略して書面やメールで株主総会決議事項について株主の賛否を問い、同意を貰うことで、株主総会の決議があったものとみなすものです。但し、書面決議では株主全員の同意を得る必要がありますので、反対する株主や行方不明の株主がいる場合には採用できません。会社の会議室やホールなどを借りて開催される株主総会と効力は同じで、決議できる内容や範囲にも制限はなく、全ての決議(普通決議、特別決議、特殊決議)が可能です。また株主総会だけでなく、取締役会(定款の定めが必要)・社員総会・評議員会(学校法人を除く)・理事会(定款の定めが必要、学校法人を除く)等でも書面決議を採用できます。
書面決議は現在のような特殊な状況下だけでなく、平時においても活用できます。招集手続きや会場の準備等が不要になりますので、手間を省くことができますし、株主の中に外国人や外国法人が含まれる場合や、日本人でも海外など遠隔地に居住している場合など、実際に集まることが難しい様々な状況において活用できます。詳しくは弊所HPの相談事例「書面決議(決議の省略)とは何ですか?」をご覧ください。