相談事例
CASE
2019.7 櫻井 の回答
マスコミやネット上では、成年後見制度は「使い勝手が悪い」「自由度が少ない」「本人のためにならない」「専門職後見人への費用が高い」といたって不評です。その反動で、前記の欠陥をすべてカバーできるバラ色の制度として「家族信託」が登場してきています。
「成年後見制度」は、判断能力の不十分な成年者(例外有)の財産や権利、生活を守る仕組みです。「成年後見制度」には「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。両制度とも、判断能力が低下してからスタートします。
「法定後見制度」はすでに判断能力が不十分な方の制度で、家庭裁判所が後見人を選任し、後見人の報酬は裁判所が決めます。資産や管理財産の複雑さ(以下、「複雑さ」といいます。)によりますが、原則月額2万円です(報酬の目安はネット上で公開されています)。
「任意後見制度」は頭がしっかりしているうちに、自分が後見人となってもらいたい人と契約し、判断能力が低下した時にして欲しいことを託し、報酬は契約の中で決めます。複雑さによりますが、月額3万円が多いです。ただし、任意後見契約の発効は家庭裁判所で任意後見監督人が選任されてからで、任意後見監督人の報酬は裁判所が決めます。複雑さによりますが、原則月額1~2万円です。両制度とも申し立てるとき、専門家に依頼すれば10万円前後の費用が必要です。任意後見契約締結時にも専門家に依頼すれば同程度の費用は掛かります。
「家族信託」は、財産を持っている人(委託者:例えば父)が信頼のおける親族(受託者:長男)に特定の財産(信託財産:賃貸アパート)を移転(不動産や現金の所有権を移転)し、自分自身または他の親族(受益者:父)の利益のために、その財産の管理・処分を託す制度です。裁判所の関与はありません。委託者の判断能力があるうちに契約により設定します。認知症になってからでは使えません。報酬は契約で決めます。通常、親族間で行うので報酬はない場合が多いです。しかし、受託者をチェックする信託監督人あるいは受益者代理人等を専門家(弁護士、司法書士、税理士等)に依頼すれば、裁判所の監督がない分責任は重く、複雑さに応じ報酬はかかります。信託設定時には契約書はオーダーメードとなるので、任意後見契約の2~3倍、あるいは信託財産額の〇%と決めておられるところもあるようです。また、仕組みが難しく長期に亘るため、専門家の継続的にアドバイスを受けたり、毎年税務申告が必要な場合もあり、専門家や税理士費用が掛かることもあります。
成年後見人等もよる不正報告件数は、平成26年まで増加傾向にあったが、平成27年以降,不正報告件数及び被害額はいずれも減少している。
(注)各年の1月から12月までの間に、家庭裁判所が不正事例に対する一連の対応を終えたとして報告された数値であり、不正行為そのものが当該年に行われたものではない。
ところで、上記表を見て下さい。これは法定後見の場合の成年後見人等による不正報告件数と被害額です。家庭裁判所に発覚したもので氷山の一角だと言われています。マスコミ等では弁護士、司法書士の不正(棒グラフの下のピンクの部分)が大きく取り上げられますが、9割以上(棒グラフの上の白い部分)は親族によるものです。家庭裁判所の1年に1回の監督があっての数字です。私は他人の(例え親族であっても)お金を預かる行為は、誰であってもチェックを受けるべきだと思います。ましてや、判断能力が低下した人のお金は本人がチェックする能力を失っているわけですから、第三者の目が必須です。家族信託は親族との信頼関係の上に成り立っている制度ですが、例外ではないと思います。結論からいうと、ケースによりますが家族信託はコストがかからないと一概には言えないと思います。
「裁判所の監督がないこと」「自由度が高く柔軟であること」が善なのか?「使い勝手が悪いこと」が悪なのか?よく検討する必要があると思います。