相談事例
CASE
2017.7 松尾 の回答
人にお金を貸して返済を請求する権利は、一定の時間を過ぎてしまうと借主が拒否すれば支払ってもらえません。請求せずに放置していた方が悪いという考えからです。これを「消滅時効」といいます。
現行民法においては消滅時効の期間は、原則として権利を行使できるときから10年間ですが、建物工事の工事代金などは3年、ピアノ教室などの月謝は2年、レンタルCD店のレンタル料は1年と、債権の種類により異なっていました。
しかし、このような細かい分け方は複雑で分かりにくいことから、新しい民法では、「権利を行使することができることを知ったときから5年間」「権利を行使することができるときから10年間」に一本化されました。ただし例外として「人の生命・身体に対する損害賠償については20年間」と消滅時効の期間が長期化されます。被害者である債権者の保護の必要性が高いということからです。
請求せずに放置していると消滅時効にかかりますが、債権者としてすべきことをすれば時効はストップします。これを現行民法では、「時効の中断」といいます。中断という言葉からは再開すればストップしたところから再び始まる感じがしますが、そうではなく、時効が中断すれば時効期間はリセットされます。こうした法律用語の分かりにくさを解消するために、新民法では時効の中断を「時効の更新」と改めました。「時効の更新」は時効期間のリセットです。
また、現行民法では時効停止事由の終了後、法定の期間が経過するまで時効の完成を猶予することを「時効の停止」と呼んでいまが、新民法では時効の停止を「時効の完成猶予」と改めました。
債権者が債務者と協議している間は、時効完成が猶予される制度ができました。時効の完成が猶予されるためには、「協議を行う旨の合意」があればよく、実際に協議が行われることまでは必要ありませんが、書面で合意がなされることが必要です。完成猶予の期間は1回の書面のやりとりで最長1年まで認められます。1年の期間が満了する前に再度協議する旨の書面を作成することは可能ですが、完成猶予の期間はトータル5年間までです。
時効期間が過ぎたからといっても、直ちに権利が消滅するわけではありません。債務者が時効を主張しないかぎり、権利は消滅しません。この主張を「時効の援用」と言います。現行民法では、時効の援用を行うことができる者(時効の援用権者)は「当事者」と定められていますが、判例においては当事者とは時効完成により直接利益を受ける者と解釈されてきました。
改正民法では、判例の見解を明文化し、「当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む)」と規定しました。