相談事例
CASE
2011.1 担当者 の回答
貸したお金が返ってこない、売った品物の代金を払ってくれない、このような場合に債権者(お金を貸した場合の貸主、売買の売主など)が債務者(お金を借りた借主、売買の買主など)に対し「お金を支払え」という趣旨の判決をとっても、債務者が支払ってくれなければ、その判決は絵に描いた餅で紙切れにすぎません。これは民事事件ですから、債務者は支払わなくても刑務所に入れられるなど何か罪に問われるわけではありません。一方、債権者は、いくら勝訴判決があっても債務者宅にずかずか入って行って金庫の中からお金を取ってくるといった自力救済も許されません。債権者が次の一手を打たなければ、一生支払われない可能性があります。
その次の一手が、民事執行手続きです。これは、裁判所の力を借りて、債務者の財産から強制的に弁済を受けることができる制度です。たとえば、AさんがBさんに対し、借金返済を求めた裁判で勝訴したのに、Bさんが支払わないという場合、Aさんは、Bさんの財産(土地・建物など)を裁判所に売ってもらい(「競売」といいます)、裁判所は入ってきたお金の中から、Bさんの借金返済としてAさんに分配する、というものです。裁判所が売ってくれるのは土地・建物のみならず、Bさんの動産、有価証券なども対象にできます。
裁判所は裁判で勝訴したときだけでなく、以下の場合も同様に力を貸してくれます。
「強制執行認諾文言※」のある公正証書を持っている
※強制執行認諾文言
債務者が、債務を履行しない時には直ちに強制執行を受けても異議はない、と認める文言
したがって、判決書・抵当権の登記・強制執行認諾文言つきの公正証書は、それだけ強力な武器になるということです。逆に債務者からすれば、勝手に自分の財産を売られてしまいかねないわけですから、早く払っておくに越したことはないのです。
ただ、このような手続きは、メリットばかりとはいえません。例えば、不動産の競売の場合、売買代金は比較的大きな額が見込めますが、初期費用(予納金)としてかなりの額がかかってしまうこと、不動産の価格を評価するためにかなりの時間を要することは注意すべき点です。また、動産の競売の場合は、廉価でしか売れないケースが多く、ほとんど回収できないこともままあります。
そこで、最も簡便といえる民事執行手続きが、債権執行です。
上記の例で申しますと、BさんがCさんに別でお金を貸している場合やBさんがDさんに不動産を貸している場合に、本来BさんがCさんから返してもらうお金やBさんがDさんから受け取る賃料を、Aさんが代わりに受け取ることができる手続きです。
債権執行で最も一般的なのは、債務者の銀行の預金口座の差押です。要するに預金口座などを差し押さえて、その口座から支払いを受ける、という手続きです。債権執行は、スムーズにいけば1ヶ月ほどで回収が見込めます。しかも、不動産の競売に比べて遥かに費用も安く、動産の競売のように、本来の市場価値より廉価でしか売れなかったなどということもありません。Bさんがどこの銀行のどこの支店に口座をもっているか分かっている場合には、大変便利な手続きといえます。
このように、判決書は強力な武器となりうるわけですが、黙って持っているだけでは当然ながら裁判所は動いてはくれません。申立をして始めて、味方になってくれます。また、武器を得たことで満足して、ずっと何もしないでいますと、時効で返済を受ける権利自体が消滅してしまうこともあります。ちなみに裁判で確定した権利の消滅時効は10年です。(飲食代の請求のように裁判も何も起こしていない場合は1年で消滅時効にかかる債権もありますから、判決をとっておけばチャンスは10年間確保されるともいえます。)
なかなか支払ってくれない債務者に対しては、こちらの権利が消滅する前に手を打っておくことが大切です。