相談事例
CASE
2017.7 櫻井 の回答
2016年(平成28年)4月に、司法書士界が5年がかりで取り組んできた成年後見制度利用促進法(以下、「促進法」といいます。)が成立しました。
2000年(平成12年)に介護保険制度と成年後見制度は同時にスタートしました。両制度は高齢社会を支える車の両輪として歩むはずでした。ところが、介護保険制度が630万人に利用されているのに比して、成年後見制度は20万人にしか利用されていません。介護保険制度を知らない方はいらっしゃらないでしょう。高齢者にはなくてはならない制度となっています。しかし、「成年後見」は言葉すら知らないという方がまだまだ多いのです。
促進法はこの現状を打破するために、国が成年後見制度の利用促進を図るための基本計画を作り、それに基づいて各市町村が実現に向けて色々な具体的方策を講じるものです。
介護は「措置」から「契約」へ変わりました。私たちは自らの意思で自分にふさわしい介護事業者や施設を選択し、「契約」を締結して利用することができるようになりました。「契約」をするには、契約内容を理解できる判断能力が必要です。けれども、全国には認知症(約500万人)、精神障害(約320万人)あるいは知的障害(約74万人)により判断能力が不十分な方(以下、「本人」といいます。)が約900万人おられます。そのため、本人に代わって契約を締結する人や、本人が不利益とならないよう支援する人が必要です(本人の判断能力の状態によって、支援する人は、成年後見人、保佐人、補助人と異なります。以下、三者を総称して、「成年後見人等」といいます。)。成年後見人等は、介護事業者との契約のみならず、本人の預貯金や不動産等の財産管理、リフォーム詐欺等消費者被害の防止、医療契約の締結、必要な社会保障制度の利用等々、与えられた代理権、同意権、取消権に基づき本人を支援します。
このように、成年後見制度は本人の権利や財産を、法律面や生活面から保護し支援するための仕組みです。ただ、日本では多くの本人の権利は守られていないといっても過言ではありません。なぜなら、単身高齢者世帯、老老介護世帯、認認介護世帯が増加し、声を上げることすらできない、本来受けられるべき社会保障へ辿り着けない人が増加しているからです。
人口約8300万人のドイツでは、法定後見制度の利用者が約130万人、任意後見制度の利用者が約260万人です。少なくとも人口の1%は成年後見制度の利用が必要と言われています。日本であれば、現在の6倍の約120万人の利用は必要といえます。
これまでは、保健、医療、介護の分野と司法との連携がうまくいっておらず、本人に「介護」と「法律」両方の支援が必要であるのに、介護の支援だけで法律の支援にはつなげられてこなかったという側面があります。促進法では、その反省から、成年後見制度の利用を必要としている人の早期発見に努め、本人や親族の相談には初期の段階から保健、医療、介護の分野の専門職と一緒に法律の専門職も加わり、いち早く成年後見制度の利用につなげようというものです。
成年後見制度を利用する一番のメリットは、判断能力が不十分な方に成年後見人という裁判所の監督を受ける「公的立場の人間」が付くことにより、点ではなく線の支援、つまり、継続的な支援を受けることができることです。例えば、これまでは、精神疾患のある甲さんは、生活費で困るとAの相談窓口に、医療についてはBの窓口に、介護はCの窓口に、障害はDの窓口に、就職はEの窓口に、と紹介はされますが、トータルのサポートを受けることはできませんでした。けれども、甲さんに成年後見人乙が選任されると、乙は甲さんの困りごとをトータルに考えて、甲さんの意思を尊重しつつ、甲さんにふさわしい支援をしてくれます。それは、甲さんが回復するか亡くなるまでずっと続きます。
現在、各市町村で成年後見制度利用促進のための基本計画の策定が始まっています。市町村により取組に温度差があります。幸い大阪市は全国のトップランナーです。誰でも安心して使える成年後見制度とするために、後見の現場を一番よく知っている私たち司法書士は、地域の実情を踏まえた実効性のある促進計画を策定してもらえるよう、現在、各市町村に働きかけをしているところです。皆様にも是非応援して頂きたくよろしくお願いします。