相談事例
CASE
2018.1 櫻井 の回答
では、ある事例を元にご提案いたします。
花子さん(仮名)は85歳、一人暮らしで頼れる身寄りはありません。公務員でしたから、年金は月20万円あります。定年退職後、お琴を教えていました。昨年、自宅で倒れ30時間後に発見され、レスキュー隊によって救急搬送されました。
脳梗塞でしたが、幸い脳に障害はなく判断能力はしっかりしています。しかし、右半身に麻痺が残り、リハビリのため3ケ月間の入院が必要でした。花子さんは着の身着のままで搬送され、自宅のことも心配だし、お金も全然持ってきていませんでした。花子さんのお友達から当法人は相談を受けました。すぐに面会し、花子さんの要望をお聴きしました。退院後は自宅での生活を強く希望されました。
成年後見制度は判断能力が不十分な方を支援する制度で、判断能力がしっかりしている方を支援するための制度ではありません。そこで、花子さんと当法人は財産管理等委任契約(「任意代理契約」ともいいます。)を締結することにしました。財産管理等委任契約は、成年後見制度のように法律で内容が決まった制度ではなく、民法の委任契約に基づくものです。当事者間の合意のみで効力が生じ、委任する内容も話し合って自由に決めることができます。
花子さんは、3か月間の入院の間、自宅に置いている現金や通帳等の管理が心配でした。それらを花子さんが管理できるようになるまで当法人でしばらくお預かりし、入院費用等の必要な支払いもすることになりました。自宅の火災保険の更新や、新聞の購読中止手続もしました。花子さんはお金には無頓着なところがあり、銀行や保険会社に言われるままに投資信託や医療保険に加入し、ご自分の預金の総額や保険内容、月々の収支の把握が正確にはできていませんでした。病院の個室に入ったままで大丈夫かどうか、退院後の計画を立てる上で介護保険適用を受けられない自費でのサービスはどの程度利用できるか等を検討するために、花子さんの財産目録と収支予定表を作成しました。
花子さんはお年寄り特有の「もったいない」が高じて、物が捨てられず、通販でのショッピングも好きだったので、自宅は足の踏み場もないほど物であふれていました。介護用ベッドの搬入と歩行器で歩けるよう動線確保のため、家の中の写真と間取り図をもって病院に行き、花子さんと話し合って整頓も行いました。
介護認定手続きをお願いし、ケアマネさんや介護用品のレンタル業者に病院に来ていただき、自宅での生活が可能になるよう、介護プランを立てていただき、介護用品の選定をしました。介護保険を利用して手すりを付ける住宅改修工事も手配しました。デイサービス、宅食サービス、訪問看護、家政婦さんの手配等を組み合わせ、退院に備えました。花子さんはリハビリを頑張って、一人で歩行器を使って歩けるようになりましたが、右半身が不自由なので、炊事等家事はしばらくできません。退院初日からヘルパーさんに付き添ってもらって、家の中でできることとできないことの確認を行いました。一週間は家政婦さんに泊ってもらいました。
幸い、花子さんは社交的でお友達も多かったので、退院の日から電話や来客が絶えず、突然の出来事にも関わらず、落ち込まず前向きに取り組まれ、当初難色を示されていたデイサービスもお友達ができたと喜んで通っておられます。
花子さんのように、必要になってから身体が不自由になった時の財産管理等委任契約を結ぶこともありますが、元気な時の見守り契約、判断能力低下に備えた任意後見契約と同時に予め締結しておくこともできます。花子さんはすぐにご自分の意思を伝えることができましたが、事故や病気によっては意思の疎通がすぐには困難なことがあるからです。老後のために、あらゆるケースを想定したトータルの安心を一度ご検討ください。