相談事例
CASE
2014.1 櫻井 の回答
後見人は、就任後1か月以内に被後見人(以下、「本人」といいます。)の財産目録を作成し、家庭裁判所に提出しなければなりません。財産目録とは、不動産、預貯金、現金、有価証券、生命保険などの資産と、借入金、未払金などの負債をわかりやすく一覧表にしたものです。後見人は財産目録の作成が終了するまでは、急迫の必要がある行為以外の行為を行うことはできません。なぜなら、後見人はその職務を行うにあたって、本人の財産を本人のために使って、その人らしい生活を実現していく責務があります。通常、本人が100歳になるまで安定した生活ができるよう計画を立てます。そのために、まず、本人の正確な財産を把握する必要があります。
ご家族の支援や地域の福祉サービスの利用等により、これまでご本人の財産管理がきちんとなされていた場合は、財産目録の作成もそれほど大変ではありませんが、近くに身寄りもなくゴミ屋敷状態のご自宅で一人暮らしをされていた方の財産目録の作成は容易ではありません。ご本人はすでに判断能力はなく、取られ妄想もあって、家のあちこちに現金や通帳を隠し、隠したところは忘れておられますから、植木鉢の中や布団の下、本の間から現金が出てきます。年金事務所、金融機関、公共料金等の書類や郵便物から取引銀行を調べ、通帳の再発行を依頼します。何ら手掛かりがなければ、自宅近くの金融機関へ口座の有無を問い合わせます。とりわけ高齢者の方はゆうちょ銀行に口座を持たれていることが多いので必ず確認し、その際には併せて、かんぽ生命保険の加入の有無も調べます。
通帳に不審な動きがあるときは過去の取引履歴も取り寄せてチェックします。そこからは色々なことが読み取れます。投資信託の購入、証券会社との取引、消費者金融との取引、マルチ商法に引っかかっていること、競馬が好きだったこと等々。
消えた年金がないかも必ず確認します。新しいことは無理でも、ご本人は過去のことはしっかりお話しいただけることがあります。「チャックを作っていた」という言葉を年金事務所に伝え、消えた年金が判明し、さかのぼって年金が増えた方もあります。
生命保険は特に要注意です。満期が来て満期保険金もすでに受け取っている保険証書でも、入院保障がついていた場合、満期前の入院分については保険金がでます。ご本人の判断能力が衰えているので、入院保障がついていても請求していないケースが多いのです。過去の入院履歴を調べ、診断書を取り寄せ、何十万円も請求できたケースがあります。
このように財産目録の作成は、根気よくあちこちに問い合わせ、まるで宝探しの感があります。預金がなく収支がギリギリの方にとって、保険金が振り込まれると不意の出費に対処できる資金ができるので、自分のことのように安堵し、事務所全体で歓声をあげることがあります。