相談事例
CASE
2014.7 櫻井 の回答
「自分がいなくなった後、残される障害のある子供の将来が心配」
「自分がいなくなった後、残される認知症の配偶者のことが心配」
「親なき後問題」とは障害(知的、精神的両方を含みます)のある子の面倒を看てきた親が死亡したり、親自身が認知症になったりして、子の面倒を看ることができなくなる問題です。特に在宅の場合は、親にもしものことがあると障害のある子の生活はたちまち立ち行かなくなってしまいます。この問題は障害のある子に限らず、認知症のある配偶者を支えて暮らしているもう一方の配偶者の問題にも通ずることです。
両者に共通していえることは、普通の親子、夫婦以上に深い愛情を持って、子に、配偶者に強くかかわっておられることです(以下、「親」とは「介護をしている配偶者」も含め、「子」とは「障害のある子」と「認知症のある配偶者」両者を含めます。)。
この心配を解決する第一の方法は、裁判所で子に後見人(子の障害の程度により補助人、保佐人、成年後見人と保護する人の呼び名、権限は異なりますが、以下、「後見人」と総称します。)を選任してもらうことです。選任の時期は、親が一人になった時や身体的状況にもよりますが、70歳を越えたら考えられると良いように思います。
一旦、子に後見人が選任されたら、子が生きている限り裁判所が関与し、この保護が途切れることはありません(もちろん、子の判断能力が回復すれば後見は終了します)。後見人の選任は裁判所が職権で行いますが、親を後見人候補者として申立てをすれば、親を後見人に選任することが多いです。理想は、親が元気なうちは親が後見人となり、親が後見業務をできなくなったら第三者にバトンタッチすることですが、親がかなり高齢で健康に問題があったり、子の資産が多額であったり、親のかかわり方に問題がある場合等は専門職後見人が選任されたり、後見監督人が選任されることがあります。裁判所はあくまで子の最善を考えて後見人を選任しますし、私は第三者が選ばれることも意味のあることだと思っています。それは、親が健在なうちに第三者後見人と子との出会いが始まることで、親は後見人と子との信頼関係を築く仲立ちができますし、親も後見人に子のためにこのようにして欲しいという希望をしっかり伝えておくことができるからです。
第三者後見人は親のように直接子を介護するわけではありませんが、子の最善を考えて、ヘルパーさんの手配、作業所とのかかわりの検討、施設入所の検討、医療機関との契約、行政機関の諸手続き等司令塔となって動いてくれます。最初から、親が信頼できる第三者を候補者として後見の申立てをすることもできます。そんな候補者は見当たらないという方はご相談ください。司法書士がつくった公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートは後見人の供給機関として活動しております。私も会員ですので取次ぎのお手伝いもいたします。家庭裁判所への後見開始の申立ては、法テラスを利用することで、申立て費用等の分割払いができます。
次に、私が是非お勧めしたいのは、親が信頼のできる第三者(以下、「任意後見人」といいます。)と任意後見契約を結んでおくことです。任意後見契約は親の判断能力が衰えたときに効力を発生させる契約です。万一に備えて、親自身の生活と財産管理を託しておくのです。さらに、任意後見人に「子の法定後見の申立て」、「子への扶養料の支払い」、「子への贈与」等を依頼しておくこともできます。子の後見人は親の面倒まではみてくれません。しかし、親の任意後見人を子の後見人候補者とする申立てはできますから、信頼できる人に親と子双方の将来を託すことも可能です。
ひとくちに「親なき後問題」といっても、他の親族との関係、経済的な問題、身体的な問題様々ですから一概に上記のケースが当てはまるわけではありません。その他、各種福祉サービス、民事信託、遺言等組み合わせて最良の方法を考えていく必要があります。