相談事例

CASE

「成年後見制度の利用」で何故老齢の親を悪質商法の被害から守ることができるのですか?

2010.7   櫻井 の回答

2005年(平成17)に埼玉県富士見市で老姉妹が19もの事業者と住宅リフォーム工事契約を結び、5000万円以上の被害にあったというニュースがありました。この老姉妹は、二人とも認知症があったとのことです。また、久し振りに実家に帰ったら、「真新しい羽毛布団が数組あった。」「ダンボールいっぱいの健康食品があった。」等々、お年寄りを狙った悪質商法の半分以上は訪問販売によって行われています。在宅での生活を望んでいる少し認知症のあるお年寄りを狙う悪質商法は増加しています。

 リフォーム業者に工事を頼むということは、依頼者と工事業者との間で請負契約が締結されたということです。一旦締結された契約を、なかったことにするのは多大な時間と労力を要します。重度の認知症の人(意思無能力者)の結んだ契約は無効です。しかし、契約を締結した時に自分の親に意思能力がなかったことの証明は、契約の無効を主張する側でしなければなりません。都合よく、契約締結時に判断能力に関する医師の診断書があったとか、介護認定の調査をしていたということはまれです。もちろん、8日以内であればクーリングオフにより無条件解約ができるケースもありますが、そもそも認知症のあるお年寄りは、自分がだまされたことに気づいておらず、契約の詳しい経緯も覚えていないので、発覚したときにはずいぶん時間がたっていることが多いのです。

このような被害を食い止めるのに成年後見制度は威力を発揮します。成年後見人制度の利用を公的に証明してくれる法務局発行の登記事項証明書を提示するだけで、契約の取消を主張することができます。水戸黄門の印籠のような役目を果たします。

 

成年後見制度には任意後見と法定後見がありますが、この威力を発揮するのは法定後見です。家庭裁判所は申立てがあると、判断能力が不十分な方のために補助人を、判断能力が著しく不十分な方のために保佐人を、判断能力が全くない方のために後見人を選任します。(以下、補助人、保佐人、後見人をあわせて「後見人等」といいます。)後見人等には同意権と取消権があります。補助人と保佐人の同意権と取消権は民法と裁判所で認められた範囲に限られますが、「○万円以上の商品の購入」「○万円以上の請負契約の締結」等を同意権目録に入れておいてもらえば、上記のような事例に対応できます。

つまり、成年後見制度を利用していれば、認知症のあるお年寄りが結んだ契約も、そのお年寄りに不利益が生じるおそれがある場合、その契約に後見人等の同意がなければ、錯誤、詐欺、強迫、不法行為、クーリングオフ、消費者契約法違反等々証明することなく簡単に取消すことができるのです。(ただし、コンビニで買ったお弁当のような日用品の購入の取消はできません。)

 

とはいえ、いち早く悪質商法を発見し、対処することが一番です。家の中に見慣れない物が増えていないか、見知らぬ人が出入りしていないか、ご家族の方、ご近所の方の良い意味での監視の目が不可欠です。

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