相談事例

CASE

中小企業の経営をしています。自分は性格的に認知症にはならないタイプだと思っていますが、経営者としての責任もあるので、念のため任意後見契約を結んでおいた方が良いのでしょうか?

2013.1   山上 の回答

任意後見契約は一人暮らしのお年寄りのためのものと考えられていませんか?任意後見契約は自分の判断能力が衰える前に、衰えた時に自分に代わって判断してくれる人を予め自分で決めておくための制度です。遺言は死後の自己実現の手段ですが、任意後見契約は生きている間に判断能力が衰えた時の自己実現の手段です。

 

中小企業の社長は、通常、自社の大株主です。そんな社長が脳卒中や交通事故で突然高次脳機能障害になり判断能力がなくなってしまうと、有効な議決権の行使ができなくなります。株主総会の招集ができない、株主総会の開催もできない、後継者の選任もできない・・・会社は何も決められない状態に陥ります。死亡であれば、株を相続した人が議決権の行使をすることができますが、生きている間は、社長が所有している株を誰も勝手に奪うことはできません。

 

そんな時、予め任意後見契約を締結し、任意後見人に「自社の保有株式の議決権を行使する権限」を委任しておけば、社長にかわって任意後見人が議決権の行使をすることができます。また、「任意後見契約の効力発生と同時に、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づき自分の保有する株を後継者○○へ贈与する権限」を委任しておけば、スムーズな事業承継もできるかもしれません。もちろんそのためには事前に任意後見受任者(任意後見契約の受任者で、契約の効力が発生するまでの呼び方です。効力が発生すると「任意後見人」となります。)に十分自分の意向を伝え、文章化しておく必要があります。

 

もう一点、任意後見契約を締結しておくメリットは、取締役としての地位が当然には奪われないことです。任意後見契約を締結しておらず、法定後見の制度が適用され、社長が成年被後見人又は被保佐人となった場合(つまり、判断能力が著しく不十分になってから、裁判所により後見人や保佐人が選任された場合)、選挙権だけでなく取締役の資格も喪失し、退任しなければならないことになります。認知症の方には色々なパターンがあり、短期記憶はないけれども経営の鋭い感覚は維持されている方があります。とはいえ、任意後見契約を締結する際には、ご自分の「辞任届を提出する権限」も忘れずに委任事項にいれておくべきです。

 

会社の事業継続を考えるとお元気なうちに遺言書の作成任意後見契約の締結をされることをご提案します。

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