相談事例
CASE
2024.1 山上の回答
相続土地国庫帰属制度については以前に少し触れましたが、令和5年4月27日に運用が開始され、全国の法務局へ同年9月末までに約1万4000件以上の相談、同年8月末日時点で885件の承認申請があり、そのうち2件の土地(富山県内の宅地)が同制度により初めて国庫に帰属されました。
相続土地国庫帰属制度とは、文字通り相続した不要な土地を国庫に帰属させる制度ですが、何でもかんでも国庫帰属させてしまうと国の負担が大きくなり過ぎるため、帰属させることができる土地に要件を設けています。
同制度を利用するための手順は次のとおりです。
1)事前相談
2)申請書類の作成・提出
3)承認・負担金の納付
まずは法務局に相談(事前予約制)します。
申請書類を提出する法務局は当該土地の所在する法務局の本局と管轄が決められていますが、相談は最寄りの法務局(ただし各都道府県の本局に限る)でもできます。
当該土地の状況が分かる資料や写真を持って事前に相談することで、同制度利用の実現可能性を判断してもらいます。
相続土地国庫帰属制度の利用ができない土地
■相続以外の原因で取得した土地
■建物が存在する土地
■抵当権などの担保権や賃借権などの使用収益権が設定されている土地
■他人の使用が予定されている土地(他者の通路として使用されている土地、墓地内の土地、境内地、水道用地・用悪水路・ため池として使用されている土地)
■特定有害物質により汚染されている土地
■境界が明らかでない土地、所有権や境界等について争いがある土地
(測量や境界確認書の提出までは求められませんが、申請者が認識している隣接土地との境界が写真等で確認できること、申請者が認識している土地の境界と隣地所有者が認識している境界に相違がなく争いがないこと、が必要)
■崖がある土地で管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
■土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木等が地上に存在する土地
■除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができないもの(産業廃棄物・建築資材・建物の基礎・古い水道管・浄化槽・井戸・大きな石など)が地下に存在する土地
■道路に面していない土地
■災害の危険により、土地や土地周辺の人や財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地
■土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人・農産物・樹木に被害を生じさせる土地
■適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林
■国庫帰属後、国が管理費用以外の金銭債務を負担すべきこととなる土地
申請書の様式は、各法務局本局でもらうことができます(法務省ホームページからダウンロードすることも可)。申請書に必要事項を記入し、審査手数料(土地1筆につき1万4000円)分の収入印紙を貼付し、下記の添付書類と共に管轄の法務局本局に持参または郵送で申請します。なお、審査手数料は申請を取り下げた場合や審査の結果として却下・不承認となった場合も返還されません。
申請は本人(又は法定代理人)の名前で申請します。任意代理人(親族や司法書士等の資格者)による申請は認められませんが、申請書類の作成を弁護士・司法書士・行政書士に委任することは可能です。
審査では、対象の土地に出向いて実地調査が行われます。案内がないと当該土地にたどり着けないなどの事情がある場合は同行を求められることがあります。
審査期間は実地調査を含め申請から半年~1年程度とされています。
添付書類
■申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面(国土地理院の地図にマーカーで囲んだもので可)
■申請に係る土地と隣接土地との境界点を明らかにする写真(上記図面に撮影した各境界点の場所を記入し、撮影した写真がどの境界点かを明示)
■申請に係る土地の形状を明らかにする写真(近景・遠景の写真など、土地の状況が分かる最新の写真を複数枚用意)
■申請者の印鑑証明書(日付の制限なし)
■相続登記が未了の場合、申請者自身が当該土地を相続したことを証する書面
■固定資産評価証明書(任意)
審査が完了すると、承認・不承認の結果の通知が申請人に届きます。国庫帰属が承認された場合、申請人は、通知に記載されている負担金額を期間内(通知到達の翌日から30日以内)に日本銀行へ納付します。
負担金とは、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額です。申請対象の土地は「宅地」「農地」「森林」「その他」の4種類に区分され、この区分に応じて負担金が決定されます。区分が「宅地」「農地」「その他」の場合は面積にかかわらず原則としてこの負担金は20万円とされています(宅地・農地は例外あり)。区分が「森林」の場合は、面積に応じて金額が決定されます。
申請人が負担金を納付した時点で土地の所有権が国に移転し、所有権移転登記は国の機関で行われます。